どんぐり雑感
 読書室


泡坂妻夫

〜マジシャンの紋章〜


 「マジシャンは、人を騙すのが仕事だから嫌い」
 …と、真顔でおっしゃる方がいる。

 騙される、すなわち嘘→悪いこと。

 もしくは、虚偽という名の罠にまんまとハメられる。
 とにかく、自分が事実誤認をした(そのようにコトを運ばれた)、ということが許せないらしい。

 でもなー。世の中には、騙される快感、というモノもまたあるのだよ。

 実際、巧妙なミスディレクションというものは、読んでいる途中では判らない。ラストの謎解きを読んで、「何ィッ?ちょっと待て、オイ」と慌てて前の方を読み返し、オノレがどこで騙されたかを知るのもまた、本読みの一興、というものなんだけれども。

 …というわけで。読んでいるうちに、どっか違うところに連れて来られちゃった、という違和感を楽しみたかったら泡坂妻夫。

 主人公そのものが「ヘン」な亜愛一郎シリーズ、本じたいに仕掛けが施されているヨギ ガンジーシリーズ、タイトル・章題・始めの一行からラストの一行に至るまで回文で統一した「悲劇悲喜劇」、ちょっとポルノグラフィックな話かと思って読み進めていくと、足元をすくわれる「湖底のまつり」。小説内小説がまたミステリになり、なおかつストーリー全体の謎解きにもつながるという、壮大な構造の「11枚のとらんぷ」、タイトルからトリック、人間模様、犯人にいたるまで、すべてがからくり仕掛けの「乱れからくり」、ETCETC。

 …しかし、うっかりストーリーを書くだけでも、ヘタするとネタバレになってしまうという作家でもあるんだな、この人は。
 紹介のしにくさもまたマジックというわけで。

 何冊か読んでいるうちに、バックの世界観が共通だ、ということに気づきはじめたら、あなたも
立派な泡坂ワールドの住民になれるでせう。

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