どんぐり雑感
シネマ館


「アベンジャーズ」


 これは知っての通り、テレビ番組「おしゃれマル秘探偵」(「まる秘」のフォントがない!)の映画によるリメイクだが、当初リメイクすると聞いた時、かなり不安だった。理由は60年代の秀 れたTVドラマ・シリーズを見て育った世代にはすぐ判ると思うが、TV作品のリメイクは、大概失敗作になっているからだ。

 失敗した作品のほとんどは、オリジナルのテイストを勘違いして、単に現代風にアレンジしただけとか、あるいは大幅に設定を変えたのは良いが、

「なんでわざわざこのシリーズの設定を使う必要があるんだ?」

という疑問が出てしまう出来になっていたり、あるいはストレートにTVシリーズそのままに作ったけれど脚本がつまらないとか、シリーズ物なのにその一部だけを利用 しただけで映画にしてしまうので、結局その作品の良さがまるで判らないという、まあさんざんなケースばかりだったのが実態だろう。

 特にこの作品については、もともとのTVシリーズの方がなかなか「とんだキャラクターとお話」のおかげで本国イギリスではかなりの人気シリーズだったし、我々日本人をも結構楽しませてくれ たので思い入れもある。
 さらに毎回趣向が異なる作りだったので「一体どの部分でのリメイクをする気なんだ」と、かなり危機感を持ってしまった。

 しかしいざ蓋を開けてみて、いや驚いた。脚本が実にそつなくまとめられているし、元々のキャラクターの持ち味や世界観を極力損なわないように作られていた。
 またいわゆる「イギリス人」 というものを見事なまでにステレオ・タイプで表現している点も今どきの作品としてはすばらしかった。つまりこれは元の作品を知っている人にこそ楽しめる作品になっていた訳で、これはとても 珍しいリメイク成功例になっていると言える。

  ただし興行的には多分ふるわないだろうという予感もした。これはある意味で非常にマニアックに作り方をしてしまったので仕方のない事だが、しかしこうしなければこの作品を製作した意味は まったくなくなるのだから、むしろ良くがんばって製作したとほめたいくらいだ。

 内容については、はっきり言って説明しても無駄であろう。これはその場面場面を楽しむ映画だからだ。もちろん脚本で破綻していないからここまでできるのだが。
 誤解を恐れずに言えば、「判る人にだけ判る映画」になっている。

なおこの作品でのショーン・コネリーは悪役で登場しているが、これが実にうまい。
 何がうまいかって、いつもと変わらないような容姿なのに、出てきた瞬間に一目で「やな奴だ」と判る演技をしている。
 大スターの起用という事で、見るまでは危惧していたが(某インディ・ジョーンズの例もあるし)、決して主役を食うまではいかずに、それでいて存在感のある、しかもいやな悪役という演技 をしているのだから大したもの。
 やはり彼が名優と言われるのは伊達ではない。
 というところで気がついたが、近年この人が完全な悪役に徹した作品って、これしかないのでは?
 もしそうなら、これはとても貴重な作品と言えるかもしれない。

 ところでアメリカで毎年行われている「映画ワースト10」を選ぶ映画祭があるが(たしかラズベリーズだったかな)、これになんと「アベンジャーズ」がノミネートされていたという。
 ちなみにこの 時のワースト1は「アルマゲドン」だとの事(まあ当然と言えば当然か)。

 しかしこの映画祭での趣旨は確か「みんなが大真面目に作ったけれど、結果としてバカバカしいものになってしまった作品」なのだと記憶している。
 つまり簡単に言えば「ハズした」映画だ。

 「アベンジャーズ」に関して言えば、もちろん真面目に作ってはいるけれど、頭の隅にはやはり「ある程度これはバカバカしい部分がある映画なんだ」という自覚を持ちながら作っていたと思う。
  つまり「ハズした」のではなく「意図的なもの」なのだ。
 これは昔の海外TVドラマを見て育った人には、すぐに判ると思うのだが‥‥。

 例えて言えば「0011ナポレオン・ソロ」や「秘密指令S」なんかを思い起こしてもらえば、判る人には判るだろう(これらを知らない人には全然判らない例えではある)。 きっとアメリカでは、この作品は不評だろうなと思っていたら、やはり見事にコケたそうで、アメリカ人にこのテイストを理解させるのは無理なんだろうと思った次第。
 ちなみに過去のイギリスTV作品は、日本を含むアジアやヨーロッパではウケるのに、アメリカでのみ不評なのだそうな。
 やっぱりねぇ‥‥。

 でも同じ年に「オースチン・パワーズ」が公開され、アメリカではヒットしたらしい。
 確かにこれも面白く、「アベンジャーズ」をもっと過激にばかばかしくすればこうなるかもしれないと いう見本でもある。
 私はどちらも好きだが、片方がヒットし、もう片方がコケたという状況は、どうも納得できない。これについてはマスコミにも責任があると思う。

 ただ私も人に勧めるのであれば、「アベンジャーズ」については、それこそ人を選んで勧めざるをえないと理解はしているのだが。
 ま、それはともかく、昔のTVドラマをリメイクするなら、この「アベンジャーズ」のようにオリジナルのテイストを生かした上できちんとした脚本を作るか、最初の「バットマン」のように オリジナルの雰囲気を無視してもっと凄い作品にするか、どちらかに割りきるしかないと思う。

 ただし、割り切るにしても「某ミッション・インポシブル」のような作品を作られてもねぇ‥‥。
 ちなみに早川文庫版の原作(?)は、なかなか良くできている。テレビ版を見事に踏襲しているといってもいい(というより、ほとんどテレビ版そのものだな)。
 昔のテイストを味わいたい人 には必読の書だろう。少なくとも私は、読んでいてそのシーンがテレビの画面として浮かんでしまう程だった。

(文責・どんぐり1号)


▲ シネマ館indexへ ▲