どんぐり雑感
シネマ館


「リベリオン」
(原題:EQUILIBRIUM


カート・ウィマー監督作品(2002年)
 
 最初に断っておくが、この作品は俗に言うB級である(制作費や時間の問題ではなく、完成した映画自体が、という意味である)。ストーリーに矛盾も多いし展開に無理もある。したがって人によっては「一体これのどこが面白いんだ?」と言うかもしれないが、それはそれで間違った意見ではないと言っておく。

 という前振りで始めるのは、やはりあまりにB級だからだ。そしてB級ゆえに楽しめる映画であったのも事実だ。

 ストーリー自体は良くあるディストピア物で、「華氏451」「1984年」「未来世紀ブラジル」等々、過去の映画で何度も繰り返されたテーマである。まあ端的にいって、これらの映画を観た人にとって、何一つ目新しいストーリーではない。目をつぶっていても判るストーリーと言ってもいい。事実私は最初の30分程でストーリーの予想はついたし、そのとおりの展開だった(これもある種のネタバレだが、事実だから仕方がない)。特に「1984年」「未来世紀ブラジル」の影響が強いと言えるだろう。


 前提となる話は、第三次世界大戦が終結したところから始まっている。

 第三次世界大戦が終戦後、人類が出した結論は「人間の感情を抑える事で戦争を抑止する」だった。これはプロジウムという薬を毎日打つ事で、人間の感情を押し殺し、さらに芸術(音楽、絵画、書物など)を抹殺していく。要は焚書の拡大版である。

 しかしここで誰もが考えるとおり、主人公のプレストンが薬の注射をしなかった事から話は展開していくので、あとは想像がつこうというものだ。

 だがこの薬の効用について、映画の中では「薬で感情を押さえるのと、自己の意思で感情を押さえるのとで、何の違いがある?」と問うシーンがある。これに対する答えは「自分の意志で感情を抑える事で人間は進歩できる」という、かなり曖昧なものなのである。
 観ていて「結局どちらでも同じではないか」と思ってしまうのだ。これがこの映画最大の弱点かもしれない。少なくとも私は納得できなかった。
 だからこそ、ありとあらゆる芸術を抹消していくという作業が必要だったのだろう。これにより反乱側への感情移入を試みた訳であるが、まあ端的に言って成功したとは言い難い。

 それでもこの映画にとって、ストーリーは破綻していない程度に完成されたものであれば、それでいいのである。つまりこの映画の売りはアクション部分で話題になった「ガン=カタ」にある。
 刀による居合、つばぜり合いなどを銃のアクションに置き換え、それでいて過去の映画の模倣に終わらないように心がけている。もちろん「そんなバカな」というシーンもあるが、とにかくサマになっている。これだけきちんと計算されていれば、ある程度の事は許せるのだ。

 腐ってもアメリカ映画、まあ見方によってはギャグ一歩手前ではあるが、非常に流れがスムーズでなによりかっこいいので許してしまう。
 特に、このアクションではスローモーションを極力廃しているので、そのスピード感、リアル感はなかなかのものである。これについてはスローモーションにしなかったのは正解だ。このスピード感のおかげで、ラストまで引っぱっていかれるのだ。
 やはりB級映画たるもの、弱点は演出で補うという点で、これは教科書になっていると言えるだろう。
 そしてB級映画としての説得力をもたせるためにアクションの型を作ろうとしたその努力をもって、これはA級にはならなかったが、優れたB級映画になったのだ。

 ただしこの「ガン=カタ」、実際の銃では成立しないというのも付け加えておかなければならない。顔のそばで撃ちあうのは、セミ・オートマチックの銃では非常に危険だという事だ。排出されるエンプティ・カートは、そのエジェクション・ポートにおいては指を吹き飛ばすほどの威力があるから、第二の銃口と同じなのだ。そう考えれば、あのラストの立ち回りは、おそらく成立しない。実際の撮影でもデジタル処理によるファイア・エフェクトで処理していると思われる。
 もちろんリボルヴァーでも、バレルとシリンダーの隙間から出る高温ガスでかなり危険な事に変わりはないから、まあ映画の嘘の典型ではある。

 それでもとにかく演出のうまさで逃げ切っているから、やはり映画が判っている人の作品なのだ。


ところで…。


 ここから先はネタバレ的内容に触れるので、映画を観ていない人は観てから読んだ方がいい(と、とりあえず書いておこう)。
 ラストの話ではないが、その方が間違いなく驚く、と言うか笑えるかも。




↓ ↓ ↓ ↓ 以下ネタバレ含むので注意 ↓ ↓ ↓ ↓




 この映画の世界では、絵画や音楽のみならず、感情抑制という見地から当然ペットという物も禁止となっている。したがってペットとしての動物を発見した場合、それはすべて抹殺対象となる。

 ここで薬の効果が弱くなったプレストンが、仕事中に逃げようとした犬を捕まえるシーンがある。つかまえるとその犬のアップになり、そしてプレストンの顔をなめるのだ。

 ここを見た日本人なら、例の「どうする、ア○フル」を連想してしまうだろう。誰もが予想する通り、まさにあのCMと同じ状態になってしまうのだ。

 だがあのCMと大きく違う点がある。それは中盤で犬を発見され隠しきれなくなると、なんと仲間達を皆殺しにしてしまうのだ(チームを組むような直接の仲間ではないが)。犬を救うというそれだけのために、5〜6人の人間をあっさりと殺してしまうのだ。このあたり、現在の動物愛護団体の活動そのままである。ひそかな皮肉ではなかろうかと睨んでいるのだが、実際はどうだか判らない。
考えてもみよ。例のCMで、「犬なんか飼えないでしょ」という妻を射殺して、次のシーンでは犬と仲良く暮らしているなんて事になっていたら、誰でも絶対驚くだろう。この映画でやっているのはそういう事なのだ。

 もちろんこの行為が、後半に向けての伏線の一部になるのだが、とにかく観ていて「おいおい」というシーンだらけであるのは間違いない。だがそれでも素晴らしいB級映画なのである。これは皮肉でもなんでもない、偽らざる気持ちである。

(文責・どんぐり1号)


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