どんぐり雑感
シネマ館


「サラマンダー」
(原題:REIGH OF FIRE


ロブ・ボウマン監督作品(2002年)

 これは良くできたB級映画である(リベリオンと同じような書き出しだぞ。あ、主役が同じだ)。

 とかく制作費が肥大化する傾向にある現在の映画界では、制作費の回収という問題があるため、なかなか冒険ができなくなりつつある。しかしこの「サラマンダー」といい「リベリオン」といい、とにかく何か新しい事をしたいという欲求がありありと伝わってくる。

 監督は過去のドラゴンの表現が気に入らないらしく、それらのドラゴン像から脱却するべくいろいろ検討したらしい。実際、人間的な表情をするドラゴンとか人間的な行動パターンをとるドラゴン、というのは確かにいただけない。

 結局過去の作品で、ドラゴンの描写が及第点で、その上で作品としても及第点というのは、そう多くはない。誰もが話題にする「ドラゴンスレイヤー」と、ドラゴンというには少し問題があるかも知れないが、「Q」程度であろうか。
 特に「ドラゴンスレイヤー」は、おそらくファンタジー系ドラゴン映画としてはトップレベルである。あのヴァーミラックスの動きは特筆に価する。現在の目で見ても、とてもモデル・アニメとは思えないであろう。
 実際、この映画のためにストップ・モーションの欠点を回避するために開発したゴー・モーション・システムが、とてもうまく機能しているのだ。ちなみにこのシステムはその後の「ジェダイの復讐」で、実に効果的に使われた。作品の出来は別として…。

 「サラマンダー」に話を戻すと、まず最大の特徴は、現代にドラゴンを甦らせるという事に挑戦している点が挙げられる。
 怪獣映画に慣れている日本人には「それがそんなに難しい事なのだろうか。例えば平成ガメラ・シリーズがあるではないか」と思うかも知れないが、怪獣映画という概念に乏しい欧米では、ドラゴンを現代に登場させるためには、それなりに色々な根拠と説得力が必要なのだ。いきなりドラゴンを登場させると、それはファンタジーとしてしか見てもらえないのである。だからハリウッドでゴジラを作るとああならざるを得ない。

 巨大生物が口から火を吐く、なんていうのは、欧米の一般的観客にとって絵空事でしかない。だからこそ「サラマンダー」では、火を吐くシステムをわざわざ説明しているのだ。もちろんSFとして目新しくはないが、かなり説得力があるだろう。

 こういった努力をしているのだから、あのチーフテンもどきにも、2〜3回は発砲して欲しかった。やはり戦車なのだから、主砲の発射は必要だろう。あれでドラゴンの一匹くらいは落として欲しかった。
 でも落とすとなると、本来は対空砲の方がいい。理想はゲパルトだが、M42ダスターでもいい。とにかく対空兵器が欲しいところである。ただし現実には弾薬が不足して、すぐ使い物にならなくなるだろうが。

 ところでこの映画を日本の配給元は、完全なB級映画として扱っている。パンフの表紙には映画に出ても来ないAH-64AH-1H(多分)を書き込んであるが、実際に登場するのはS76みたいなヘリ一機だけである。
 売り方をB級にするのは構わないのだが、内容と異なる宣伝の仕方はやめて欲しいものである。それでは期待していった観客を裏切りかねない。正しいB級映画なのだから、それなりの宣伝をするべきなのだ。

 ここまで私はこの映画をB級として褒めているが、実は撮影や照明に関しては完全にA級を凌いでいると言える。特にラストのあの美しさはすばらしく、このシーンでカメラと照明の担当が一流だという事が判る(そういう意味では、テレビの「サンダーバード」と同じようなものだと言えるかも知れない)。
意外と何気ないシーンが、非常に手間ひまかけて美しく撮影されているのだ。

(文責・どんぐり1号)


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