どんぐり雑感
漫画喫茶


竹本泉
〜うじゃうじゃのあう〜


 これは、ある世代に特定されてしまうかも知れないけれど。
 世の中には、いわゆる広義の「SFファン」という人種が存在する。

 これは、ひとつには昭和の半ばころ、「SF」と名のつく本をコンスタントに出していたのがある特定の出版社二社だけだった、ためで。
 『創元推理文庫』の「SF」カテゴリと、早川書房の本(これは、「銀背」か「青背」かでまた微妙に時代が違うけど、まあそれはおいといて。あと、マイナー勢力として講談社文庫の「黒背」、時期的に短いけど「サンリオSF文庫」というのもあったものの、これまたちょっと時代が違うので、別項に譲る)。

 いずれにしても、おおむね昭和30年代生まれで「SFファン」を名乗る人間は、ほぼ、上記の出版社から出ている本のどれかを読んでいた、ということになる。
 確かに色々なジャンルの本は出ていたけど、どうしても冊数は限られているわけで…この世代には、かなりの共通認識というものが存在する、というのが主眼。

 で。

 『同類の人間』を嗅ぎわけてしまうのもまた、その「共通認識」のなせるワザだったりする。

 たとえば、先日の獅子座流星群。
 一般の人々が「わーきれい」と言っているそばで、「…明日になったら盲目になってたりするんだろうか」とつぶやくような人種。
 ちなみにコレは『トリフィドの日』という小説が元ネタで…と解説するのもヤボだけど、先日はweb上のあちこちの掲示板で、この「盲目」ネタの書きこみは多数目撃された。
 そんな書き込みをみて、「ああ、ここにも同類が」とニヤっとするのが、その『SFファン』という人種だと思いねえ。

 竹本泉という漫画家もまた、この人種の一人である。

 「武部元一郎のデジャー・ソリスが…」とか、「まったく躊躇しない性格の人種が『スカイラーク』シリーズに…」なんてセリフを前置きもなくサラっと漫画の中に混ぜて、なんの違和感もないこの芸風は、みごととしか言いようがない。

 いまだに代表作として上げられる「あおいちゃんパニック!」の頃から、その芸風は変わっていない。今となっては、幼年向け少女漫画誌「なかよし」にこの作品が連載されていた、ということ自体がSF(すごくふしぎ)だ…。

 しかし、真冬に海岸に氷山が押し寄せてきて太陽光線が氷の中で乱反射、レーザービームとなって水を温め温水になる、だの、豪雨で洪水になったのに、水の表面張力が強すぎて大きな水玉になってしまった、だの、彗星が地球にぶつかると思ったら『空』だと思っていたものは巨大なホリゾントで、ソコにぶつかった彗星はみごとに進路を変えた、だの、台風が地上に降りてきて一休みしてただの、校舎を建て増ししつづけてたら構造が複雑になりすぎて一部が異次元へ通じてしまい地球の裏側にまで行けるようになってしまっただの…。

 文章にすると「なんじゃこりゃー」なネタが、この人のキャラで描かれると、「まあそういうこともあるだろう」と納得してしまうあたり、もはやSFを通りこして『竹本マジック』と言うしか。

 しかし、一定以上の知名度が出た作家には、ほとんどの場合似たような芸風の追随者(まねっこ)が出るもんだけど。
 この人に関する限り、まず見たことがないなあ。

 …まあ、「24歳だけど中学生にしか見えない女の子」とか「学校へ行く途中、道の真中に大きな岩があったら」とかの導入部から、『あんな話』を展開させてしまう人はそうそういないだろう、ということですな。
 20年来見守ってきたいちファンとしては、これからも存分に、独自の道を突っ走って欲しい、と切に願う次第。

 …あと、どこかで「のんのんじー」を完結させてください…。

▲ 漫画喫茶indexへ ▲