どんぐり雑感
漫画喫茶


山田章博
〜ペンづかいの絵師〜


 最初に読んだのが、旧「ぱふ」で同人誌として紹介され、のち東京三世社のハードカバーになった「人魚變生」だから、もうかれこれ20年になる。

 かなり独特な絵柄を説明するのに、「高橋葉介の絵を細身にした感じ」と言ったら、「あの絵が細くなるかー!」とツッコミを食らった(笑)。
 でも、初期の「魔法使いの弟子」とか、あのあたりの絵柄は本当にそんな感じだったんだけど。

 断続的にあちこちの、あまりメジャーとは言えない出版社で見かけてはいなくなり、見かけてはいなくなり。
 ある時は軽快なコメディ、ある時は妖しの魔物が見え隠れする奇妙な物語。
 和洋中華と舞台は自由自在だったけど、一番その筆致が艶っぽく映えるのは、やっぱり「和」の世界を描く時のように思う。

 なので、「ロードス島戦記-ファリスの聖女-」には、意外というか、少し驚いた。
 この人の絵柄からは、かなり遠い世界観のような気がした、のだけれど。
 いざ蓋をあけてみると、鮮やかに描きわけられたキャラクターには、溜息が出るほどだった。

 端正で生真面目な聖騎士、荒々しい蛮族の戦士、己の使命をまっすぐ見つめる神官戦士、凛とした少女司祭、老成した魔法使い。
 典型的なファンタジーゲームのキャラクターが、この人の筆にかかるとこうも見事に息づくのか、と感心しつつ…ストーリーが大きく動きはじめた1巻のラスト。
 …2巻を読むことができたのが、それから十年の後になろうとは。

 作品の掲載じたい、あっちの雑誌こっちの雑誌と流浪を繰り返した上、山田氏自身途中で病床に臥せったりもし、ずいぶん長いこと完結が危ぶまれていた作品ではあった。

 …「ロードス」じたいがもともとテーブルトークRPGだったせいか、その後、氏に対してゲーム関係のキャラクターデザインへのオファーも相次いでいた、というのもあるんだろうなあ…。
 某SSやPSで、氏がキャラデザインをしたゲームが出るたびに、「ロードスは?ロードスの続きはどうなったの?」と、京都の方を向いてつぶやいていたファンは…どんぐり2号だけではない、と思いたい。

 まあ、それはともかく。
 旧版「ロードス」のあとがきで氏が触れていた、物語ラストの「ファリスの聖女として昇華するフラウス」の姿は、想像していた神々しさとはかけ離れ、息を呑むように壮絶で凄惨なものだった。
 そのラストとともに、堂々と完結した「ロードス島戦記」。

 …そして、それとほぼ同時期。ソニー・マガジンズのコミックス部門撤退にともない、宙に浮く形となった、「East of Beast」の三巻以降。
 安倍晴明なども顔をのぞかせ、さてこれから盛り上がろうというときに(泣笑)。
 また、十年待つことになるのかなあ…。


ちょっとした補遺
 「ロードス島戦記」の登場キャラクターは、メインの英雄たちからほんの端役にいたるまで、丁寧に描き分けられていましたが、中でも特に印象に残ったのは、「姿は黒髪の童女なれど その本性は醜悪なる」禍の大元、魔神王でした。
 ほとんど全裸の体に、わけのわからない皮のようなものをまとい、美しい少女の姿でありながらも明らかに異形のもの。
 その姿に、ちょっとした連想をしてしまったのでした。

 「シャンブロウ」。

 古参のSF者としては、松本零士氏の描く、あの華奢な姿が刷り込まれてしまっているのですが、悲しいことに「大宇宙の魔女」はもはや絶版。
 何かのきっかけでリニューアル、あるいは他社から出版される機会があったとしたら。
 山田版のシャンブロウを見てみたい、とつくづく思ったことでありました。
 NWスミスはベルド風に男くさく、ヤロールはエルフのように端正に。
 そして、シャンブロウが正体をあらわす「あのシーン」を、あの魔神王の肉感的な肢体で…。

 ああ、是非とも見てみたいものであることよのお。

《さらに補遺》
 連載途中で宙に浮いた形になった『Beast of East』は、掲載雑誌「コミックバーズ」ごと、そっくりそのまま幻冬社へ移籍!
 ありがたいことである…。願わくは、このまま無事に完結へとこぎつけることを熱望。

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