どんぐり雑感
漫画喫茶


征矢友花
〜トッペンカムデンヘようこそ〜


 世の中には、「安直なファンタジー」というものが、佃煮にするほど大量に存在する。

 そらもお、たとえば理由もなく『異世界』に落っこちて、理由もなくそこで英雄になっちゃう主人公とかな。
 これもたとえばの話しだけど、一般的な生活を脅かすような怪物が跳梁跋扈するのが日常茶飯事な世界や、異能力(魔法とか)を使うものが普通に存在するような世界では、社会の様式や生活形態というものが、「既知の世界」とはまったく違ったものになる。…というか、ならなければ『異世界』として設定する意味はない。

 しかるに、多くのライトノベルやマンガで「異世界ファンタジー」と称するものの舞台は、「既知の世界」にちょっとした要素をつけ加えた、程度にとどまっており、住人の感覚や風俗に至るまで、ほとんどその差異を見出すことができない。

 さて。かといって、ここで「真のファンタジーとは何か」ということを論じられるかというと。
 その定義については、幾多の論文やwebサイトで論じられても容易に結論が出るようなもので
はなかったりする。
 「ほんとうのSF」や、「ミステリの真髄」が何か、という論議に結論が出ないのと同様に。

 …とまあ、大上段にふりかぶったあげくスカシてナンですが。
 「トッペンカムデンへようこそ」です。

 一応、どことも知れぬ、現代のこの世界とは別の世界のお話ということで。
 国王夫妻が不慮の事故で亡くなり、急遽王位を継承して自国トッペンカムデンを治めなければならなくなったローラ王女。

 国の生活は中世ふう、ドラゴンや精霊が(珍しい存在であるとは言え)実在し、「魔法使い」が普通にいる世界。
 まあ、ありがちといえばありがちです。

 しかし、王位を継いだローラ王女には「国の経営」という重圧がのしかかり、本来なら遊び盛りであろう16歳の少女はひきもきらず、他国との外交や領土侵犯への、適切で素早い対応を求められつづけます。
 陰からローラ姫を支える、幼馴染の魔法使いレジーもまた、所属する魔法ギルドの規定に縛られ、自由に魔法を行使することはできません。

 …という、細かい部分がなかなかリアルでよくできている、見た目が少女漫画少女漫画しているわりにはしっかりしたファンタジーなのですな(少女の年代をはるか彼方に置いてきてしまったオバチャンには、さすがに恋愛部分のラブラブな展開はちとこっぱずかしいものがあったりしますが)。
 特に1巻、いきなり他国から攻め込まれたローラが、動揺しながらも配下の貴族たちを纏め上げていき、内通者を発見するや冷徹な判断を下して「王としての器」を垣間見せ、同時に貴族たちの信頼を得るに至るあたりの描写には、一見の価値があります。

 本作が載っている「プリンセス」には、大御所ファンタジー作家中山星香氏の作品が、継続して掲載されています。
 そちらに比べると、スケール感の違いは否めませんが、そのぶん地に足のついた、堅実な作品という印象があります。この作品自体、現在本誌に連載中で、まだまだ先が読めない状況でもあるし。
 さて、今後の展開や如何に、というところでしょうか。

 …とりあえず、レジーの使い魔、名無しのネズミくんがラブリー(笑)、としょーもないオチをつける。

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